レアアース関連銘柄の決算はどこを見るのか
開示されている数字と、されていない数字
ニュースや記事で「レアアース関連銘柄」として名前が挙がる企業を、自分で確認しようとしたことはあるでしょうか。決算短信を開いてみると、多くの場合、そこに「レアアース」という項目はありません。では、どこを見れば何が分かり、何は分からないのか。この記事では、TDKと大同特殊鋼の実際の開示資料を例に、公表資料から確認できる範囲とその限界を整理します。
「レアアース関連銘柄」という言葉に、定義はない
最初に確認しておきたいことがあります。「レアアース関連銘柄」は、証券取引所や金融庁が定めた分類ではありません。業種区分でもインデックスでもなく、報道やメディアが便宜的に使っている呼び方です。
そのため、誰がどの基準で選んだのかによって、含まれる企業は変わります。磁石を作っている会社、精製技術を持つ会社、リサイクルを手がける会社、海外の鉱山に出資している会社。関わり方の深さも、売上に占める比率も、それぞれまったく違います。
この言葉の曖昧さを埋められるのは、各社が自ら公表している資料だけです。そして公表資料には、開示されている範囲と、開示されていない範囲があります。
決算短信のどこを見れば、事業の内訳が分かるか
上場企業は、事業を複数の区分に分けて、それぞれの売上と利益を開示しています。これをセグメント情報といいます。決算短信の後半、連結財務諸表の注記のなかに「(セグメント情報)」という見出しで必ず置かれています。
ここには2つの内容があります。ひとつは「報告セグメントの概要」で、各区分にどんな事業や製品が含まれているかが文章で説明されています。もうひとつが数値の表で、区分ごとの売上収益とセグメント利益が並んでいます。
関連銘柄を調べるとき、最初に見るべきはこの「報告セグメントの概要」の文章です。数値の表よりも先に、その企業がどういう単位で事業を管理しているのかを確認する。ここで区分の粒度が分かれば、数値がどこまでのことを語っているかも分かります。
もう一点、報告セグメントは経営管理の単位であって、製品ごとの区分ではありません。企業が経営資源の配分を決めるために使っている括りが、そのまま開示の単位になっています。つまり、読み手が知りたい粒度と、開示される粒度は、はじめから一致していません。
TDKの「磁気応用製品」に何が含まれているか
TDK【6762】は、ネオジム磁石を手がける企業として関連銘柄に挙がることの多い1社です。同社の報告セグメントは「受動部品」「センサ応用製品」「磁気応用製品」「エナジー応用製品」の4つに集約されています。
磁石は、このうち「磁気応用製品」に入ります。ただし2026年3月期決算短信の報告セグメントの説明を読むと、この区分に属する主な製品はHDD用ヘッド、HDD用サスペンション、マグネットとされています。
つまり磁気応用製品セグメントの売上高を見ても、そのうちマグネットがいくらなのかは分かりません。HDD関連の2製品と合算された数字だからです。
決算説明会の資料には、もう少し細かい記述があります。2026年3月期中間期の説明資料では、磁気応用製品事業について、HDDヘッド・サスペンションがニアライン用で販売を伸ばし大幅な増益となった一方、マグネットは自動車市場向けの販売減少で減収ながら品質改善等により収益性は改善している、と説明されています。
製品ごとの方向は読み取れます。しかし金額は示されていません。増えたか減ったかは分かるが、いくらかは分からないという状態です。
大同特殊鋼の「機能材料・磁性材料」の場合
もう1社、大同特殊鋼【5471】を見てみます。同社は重希土類を使わないネオジム磁石を実用化した企業として知られています。
報告セグメントは「特殊鋼鋼材」「機能材料・磁性材料」「自動車部品・産業機械部品」「エンジニアリング」「流通・サービス」の5つ。磁石は「機能材料・磁性材料」に入ります。
2025年3月期決算短信の報告セグメントの概要では、この区分は自動車・産業機械、電気・電子部品製造用のステンレス鋼・高合金製品および磁材製品、チタン・粉末材料等を生産・販売していると説明されています。
セグメント別の売上収益と営業利益(2025年3月期)
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| セグメント | 売上収益 | 営業利益 |
|---|---|---|
| 特殊鋼鋼材 | 2,101億62百万円 | 120億88百万円 |
| 機能材料・磁性材料 | 2,008億63百万円 | 110億28百万円 |
| 自動車部品・産業機械部品 | 1,130億31百万円 | 113億37百万円 |
| エンジニアリング | 240億67百万円 | 22億1百万円 |
| 流通・サービス | 268億20百万円 | 27億70百万円 |
出典:大同特殊鋼「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2025年5月8日公表)。売上収益は外部顧客への売上収益。
機能材料・磁性材料の売上収益は2,008億円ですが、この数字にはステンレス鋼、高合金、磁材製品、チタン、粉末材料が含まれています。磁石だけを取り出すことはできません。
一方、同じ短信の経営成績の説明には、この区分について次のような記述があります。ステンレス鋼はデータセンター用HDD向け需要が上期に増加したこと等により数量が増加、高合金は電機・電子関連の需要回復により数量が増加、磁石製品は産業機械関連などの需要減少に加え中国磁石子会社清算により売上収益は減少、チタン製品は原料市況や円安の影響もあり売上収益は増加。
製品ごとの動きは、文章では説明されています。ここでも金額は示されていません。
2社に共通するのは、数値の表よりも本文の説明のほうが細かいという構造です。セグメントの数字だけを見ていると、その中で何が起きているかは分かりません。決算短信は、表を読む資料であると同時に、文章を読む資料でもあります。
セグメントに現れない関与をどう確認するか
セグメント情報で分かるのは、あくまで既存事業の規模です。まだ売上になっていない取り組みや、研究開発段階の関与は、ここには出てきません。
そうした情報は、別の資料に置かれています。
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| 資料 | 確認できること | どこにあるか |
|---|---|---|
| 決算短信 | セグメント別の売上・利益、事業ごとの定性的な説明 | 各社IRサイトの「決算短信」 |
| 有価証券報告書 | 事業の詳細、研究開発活動、事業等のリスク | 各社IRサイト、EDINET |
| 中期経営計画 | 今後の重点分野、投資方針 | 各社IRサイトの「説明会資料」 |
| プレスリリース | 個別の提携・受注・実証試験 | 各社サイトの「ニュース」 |
| 官公庁の公表資料 | 国のプロジェクトへの参画企業名 | 内閣府、JAMSTEC、JOGMEC等 |
南鳥島レアアース泥プロジェクトのような国主導の取り組みについては、企業側の資料だけでなく、発注元にあたる官公庁や研究機関の公表資料も確認できます。企業がプレスリリースを出していなくても、プロジェクト側の資料に受託者として名前が載っていることがあります。
逆に、企業側が中期経営計画で重点分野として掲げていても、具体的な案件名や金額が示されていないこともあります。両側から見て、はじめて輪郭が見えてくるという性質のものです。
開示がないという事実を、どうとらえるか
ここまで見てきたように、レアアース事業の数字が単独で開示されている企業は多くありません。では、開示がないことをどう受け止めればよいのでしょうか。
まず確認しておきたいのは、開示がないことは、事業が存在しないことを意味しないという点です。セグメントの区分は経営管理の都合で決まるものであり、報告セグメントとして独立させる基準に満たない事業は、より大きな括りに含まれます。TDKのマグネットも大同特殊鋼の磁石製品も、実在する事業でありながら、単独の数字は出ていません。
同時に、逆の推測も成り立ちません。開示がないことは、その事業が大きいことも小さいことも意味しません。数字がない以上、規模は分からない。分からないものを、期待や印象で埋めることはできません。
ここが最も注意を要するところです。「関連銘柄」として名前が挙がっているのに公表資料で裏が取れない場合、それは「関与していない」の証明でも「隠している」の証拠でもありません。確認できなかった、という事実がそこにあるだけです。
当サイトが企業分析記事で、確認できない関与を「公表なし」と記載し、それが関与の不在を意味しないことを併記しているのは、この理由によります。書けることは減りますが、書いたことの確からしさは上がります。
公表資料を読むという作業は、答えを見つける作業であると同時に、どこまでが分かってどこからが分からないのかの境界線を引く作業でもあります。境界線が引けていれば、分からない部分について誰かが断定的に語っているとき、それがどこから来た話なのかを問うことができます。
この記事で確認できなかったこと
当サイトは、一次情報で裏づけが取れなかった事項を各記事の末尾に記載しています。これを書くこと自体が、記事の性格を示すものだと考えるためです。
- TDKのマグネット事業の売上規模。磁気応用製品セグメントの内訳としてマグネット単独の金額は開示されておらず、決算説明会資料でも増減の方向のみが示されています
- 大同特殊鋼の磁石製品の売上規模。機能材料・磁性材料セグメントに含まれており、単独の金額は決算短信・補足説明資料のいずれにも記載がありません
- 両社のレアアース調達先および調達比率。いずれも公表資料で確認できませんでした
- 報告セグメントとして独立させる社内基準。各社が何をもって区分を決めているかは、開示資料からは特定できません
本記事は、TDK「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年4月28日公表)、同「2026年3月期 中間期決算説明会」資料(2025年10月31日公表)、大同特殊鋼「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2025年5月8日公表)にもとづいて作成しています。数値は各資料の公表時点のものです。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品・銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。投資に関する最終判断は、最新のIR情報をご確認のうえ、ご自身の責任において行ってください。
