トヨタのハイブリッド車とレアアース
プリウスのモーターを支える磁石と、ネオジムを減らす技術
プリウスをはじめとするハイブリッド車は、エンジンとモーターを組み合わせて走る。そのモーターの性能を支えているのが、レアアースを使ったネオジム磁石だ。ハイブリッド車が増えるほど、レアアースの需要も増える。トヨタはこの課題に対し、2018年にネオジムの使用量を最大50%減らせる新型磁石を発表した。本記事では、ハイブリッド車のモーターになぜレアアースが必要なのか、トヨタとホンダがどう使用量を減らそうとしてきたのか、そして中国の輸出規制が自動車産業に何をもたらしたのかを、各社と公的機関の公表資料にもとづいて整理する。
ハイブリッド車のモーターに、なぜレアアースが必要なのか
ハイブリッド車や電気自動車の駆動モーターには、ネオジム磁石が使われている。小さくても磁力が非常に強く、モーターを小型・高出力にできるからだ。
ただし、ネオジム磁石には弱点がある。熱に弱いことだ。温度が上がると、磁力を保つ力(保磁力)が落ちてしまう。車のモーターは走行中に高温になるため、そのままでは使えない。
そこで、ジスプロシウムやテルビウムといった重希土類を加えて、高温でも磁力が落ちにくいようにしてきた。トヨタは2018年の発表で、自動車用のネオジム磁石はこの2つの元素を添加することで、高温でも保磁力を高く保っていると説明している。
問題は、ジスプロシウムとテルビウムが希少で高価なうえ、産地が偏っていることだ。トヨタも同じ発表の中で、この2つを地政学的なリスクの高い金属と位置づけている。
トヨタのハイブリッドと、モーター磁石の中身
トヨタは2018年2月の新型磁石の発表で、4代目プリウスのモーターの写真を資料として公開している。同社はハイブリッド車を含む電動車の普及を見据え、モーター、インバーター、バッテリーといった要素技術を「電動車に不可欠な重要技術」と位置づけて開発を続けてきた。
同じ発表によれば、自動車用モーターなどに使う磁石は、構成する元素のうち約30%がレアアースである。高温で使うために、テルビウムやジスプロシウムが加えられている。
トヨタはこの発表で、もう一つの懸念も示していた。レアアースの中では比較的産出量が多いネオジムも、ハイブリッド車や電気自動車の普及が進めば不足する恐れがあるという点だ。重希土類を減らす研究は多く行われて成果も出てきた一方、ネオジムそのものを減らす取り組みは少ない、というのが当時のトヨタの見立てだった。
プリウス1台に使われているネオジムやジスプロシウムの量について、トヨタの公表資料で具体的な数値は確認できなかった。インターネット上には1台あたりの使用量としてさまざまな数値が流通しているが、当サイトはその一次的な出所を特定できていない。
トヨタが開発した「省ネオジム耐熱磁石」
2018年2月20日、トヨタは省ネオジム耐熱磁石を開発したと発表した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める、次世代自動車向けの高効率モーター用磁性材料の技術開発の一環として行われたものである。
この磁石には、2つの特徴がある。
- 高耐熱のネオジム磁石に必要とされてきたテルビウムとジスプロシウムを使わない
- ネオジムの一部を、レアアースの中でも安価で豊富なランタンとセリウムに置き換え、ネオジムの使用量を最大50%減らす
ただし、ネオジムを単純にランタンやセリウムに置き換えると、磁力も耐熱性も大きく落ちてしまう。トヨタは次の3つの技術を組み合わせることで、この問題を抑えたとしている。
省ネオジム耐熱磁石の3つの技術
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| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 粒の微細化 | 磁石を構成する粒を従来の1/10以下まで細かくし、粒の間の仕切りを増やして、高温でも保磁力を保つ |
| 粒の二層構造化 | 保磁力に効く粒の表面だけネオジム濃度を高くし、内部を薄くして、ネオジムを効率よく使う |
| 特定の配合比 | ランタンとセリウムをさまざまな比率で試し、特性の悪化を抑えられる配合を見つけた |
出典:トヨタ自動車ニュースリリース(2018年2月20日)
その結果、ネオジムを最大50%減らしても、従来のネオジム磁石と同等レベルの耐熱性能を持つ磁石になったとトヨタは説明している。発表時点で「世界初」(2018年1月現在、トヨタ調べ)としていた。
ネオジム磁石そのものの成り立ちについては、最強磁石の主役「ネオジム(Nd)」とは?佐川眞人氏が起こした素材革命とEV時代の重要性で扱っている。
省ネオジム耐熱磁石は、いつ車に載るのか
トヨタは2018年の発表で、実用化の目標時期を2段階で示していた。
- 電動パワーステアリングなどのモーター:2020年代前半での実用化
- 電動車の駆動用モーター:要求性能がより高いため、今後10年内での実用化
駆動用モーターは、まさにハイブリッド車の走りを担う部分である。発表から10年は2028年にあたる。
本記事の執筆時点で、この磁石を搭載した車種を明らかにするトヨタの公式発表は確認できなかった。これは実用化されていないことを意味するものではない。部品の材料は車の発表で個別に公表されないことも多く、公表資料から搭載の有無を判断できない、というのが正確なところである。
ホンダは重希土類を使わない磁石を先に実用化した
ハイブリッド車の駆動モーターで、重希土類を使わない磁石を先に製品化したのはホンダだった。
2016年7月12日、ホンダと大同特殊鋼は、ジスプロシウムもテルビウムも使わないネオジム磁石を、ハイブリッド車の駆動モーターに採用すると発表した。同年秋に発表された新型「フリード」のハイブリッドモデルに搭載された。両社は、ハイブリッド車用駆動モーターへの採用は世界初(両社調べ)としている。
製法はトヨタとは異なる。大同特殊鋼の子会社ダイドー電子が量産していた熱間加工法という方法で、一般的な焼結磁石の10分の1程度の細かい結晶粒をつくり、耐熱性を高める。そこにホンダがモーター開発の経験を生かして磁石の形状を見直し、重希土類なしで必要な耐熱性と磁力を実現した。
大同特殊鋼によれば、2018年12月には、より高いトルクと出力が求められる中型ハイブリッド車「インサイト」にも採用が広がった。モーター内部で磁石を積極的に冷やす構造もあわせて採用している。
大同特殊鋼の事業全体については、大同特殊鋼の企業分析で扱っている。
トヨタとホンダのアプローチを並べると、違いがわかる。ホンダと大同特殊鋼は重希土類をなくすことを先に実用化した。トヨタは重希土類をなくしたうえで、ネオジムそのものも減らすことを狙った。どちらも、ハイブリッド車が増えるほど高まるレアアースへの依存を減らすための取り組みである。
中国の輸出規制とハイブリッド車
重希土類の問題が、現実のものとして表面化したのが2025年だった。
中国は2025年4月、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7種のレアアースについて、輸出に政府の許可が必要な管理対象とした。ジェトロの分析によれば、このうち特にサマリウム、ジスプロシウム、テルビウムの3つは、永久磁石の製造に使われるため非常に大きな影響を受けた。
ジスプロシウムとテルビウムは、まさにハイブリッド車のモーター磁石を熱に強くするために加えられてきた元素である。財務省のコラムは、この輸出規制の影響でレアアースを使う自動車部品の調達が滞り、日本の自動車メーカーが一時生産停止に追い込まれたと記している。
最新動向・時事中国のレアアース輸出規制はいま何が有効か|3本の措置と、2026年11月10日という期限いま有効な規制の中身と、2026年11月10日に迎える期限までを整理している。ジェトロは、規制を受けて、中国で磁石を製造して輸出していた企業の一部が、磁石を組み込んだ中間品まで中国で加工して輸出する形に供給網を切り替えた例も報告している。ただし多くの企業にとってコスト上昇を伴うもので、一時的な措置と受け止められているという。
この記事で確認できなかったこと
以下は、公表資料で裏づけが取れなかった事項である。編集方針として、確認できたことと確認できなかったことを区別して記録している。
- プリウスなどトヨタのハイブリッド車1台に使われているネオジム、ジスプロシウム、テルビウムの量
- ハイブリッド車の電池に含まれるレアアースの有無と量。本記事ではモーター磁石に絞って扱った
- 省ネオジム耐熱磁石を搭載した車種と、その時期。トヨタの公式発表は確認できなかった
- 現行のトヨタ車のモーター磁石で、重希土類の使用量がどこまで減っているか
- 2025年の中国の輸出規制で、トヨタ自身の生産にどのような影響があったか。トヨタの公表資料で具体的な記述は確認できなかった
- 財務省のコラムが「一時生産停止」とした日本の自動車メーカーの社名。コラム本文では特定されていない
この記事の出典
企業発表トヨタ自動車、ネオジム(Nd)使用量を大幅に削減したモーター用の新型磁石「省ネオジム耐熱磁石」を開発 企業発表重希土類完全フリー磁石をハイブリッド車用モーターに世界で初めて採用 企業発表重希土類完全フリーネオジム磁石が、Honda新型ハイブリッド車「インサイト」に採用 官公庁資料コラム 海外経済の潮流157「戦略物資としての側面を得た中国産レアアース」 調査レポート中国のレアアース輸出管理(1)日本への磁石輸出に大きな影響【依拠した資料】トヨタ自動車株式会社ニュースリリース(2018年2月20日)/大同特殊鋼株式会社・本田技研工業株式会社プレスリリース(2016年7月12日)/大同特殊鋼株式会社プレスリリース(2018年12月26日)/財務省「ファイナンス」2025年10月号コラム/ジェトロ地域・分析レポート「中国のレアアース輸出管理(1)」。いずれも2026年9月閲覧。
本記事は公表資料にもとづく記録であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。
