レアアースの都市鉱山とは
国が選んだ優先5鉱種と、事業化されたもの・されていないもの
日本がレアアースを確保する手段として、海底の資源開発と並んで挙げられるのが「都市鉱山」です。使用済みの製品に含まれる金属を回収して、資源として使い直すという考え方です。
この言葉は2000年代から使われており、技術開発も進んできました。ただし、どこまで実際に動いているのかは、あまり知られていません。すでに事業として回っているものもあれば、二十年近く「有望」と言われ続けたまま進んでいないものもあります。
この記事では、都市鉱山の基本から、国が優先対象に選んだ鉱種、事業化された分野、技術を持つ企業、そして広がらない理由までを、公表資料にもとづいて整理します。
都市鉱山とは何か
都市鉱山とは、使用済みの製品や工程くずなど、都市で使われたあとに廃棄される物のなかに含まれる有用な金属を、鉱山に見立てた言葉です。
国立環境研究所の解説では、国内には加工工程で発生する工程くずや使用済み製品など、レアメタルを含みながら廃棄される運命にある製品が多くあり、そうした製品のリサイクル技術が確立すれば重要な供給源になるとの期待から、この言葉が生まれたとされています。
なぜレアアースで重要なのか
理由は3つあります。
1つめは、日本に鉱山がないこと。レアアースの鉱石は国内で採掘されていません。一方、輸入して製品に組み込んだレアアースは、製品として国内に存在しています。
2つめは、放射性物質の問題を回避できること。レアアースの鉱石にはトリウムやウランが伴うため、分離・精製の工程で放射性物質を含む残渣が発生します。日本が1972年に国内での処理をやめた理由もここにあります。使用済み製品からの回収であれば、この問題が生じません。
3つめは、供給を他国に依存しないこと。輸出規制や地政学的な事情に左右されない供給源になり得ます。
放射性物質と日本の歴史的経緯については、当サイトの別記事で詳しく扱っています。
産業構造・技術動向日本が1972年にモナザイトを手放した理由|レアアースと放射性物質、中国依存のもう一つの起点レアアース鉱石に伴うトリウム・ウランの扱いと、日本が国内処理をやめた経緯を一次資料で追っています。国が選んだ「リサイクル優先5鉱種」
都市鉱山は対象が広すぎるため、どこから手を付けるかが問題になります。
2012年、経済産業省と環境省の合同部会は、「リサイクルを重点的に検討すべき5鉱種」を選定しました。
ネオジム/ジスプロシウム/コバルト/タンタル/タングステン
このうちネオジムとジスプロシウムがレアアースです。いずれも永久磁石に使われる元素で、ジスプロシウムは中重希土類として中国の輸出管理の対象にもなっています。
選定を受けて、リチウム電池や磁石、コンデンサ、超硬工具などのリサイクル技術開発が推進されました。2014年には経済産業省が「レアメタル・レアアース(リサイクル優先5鉱種)の現状」という資料を産業構造審議会の小委員会に提出しています。
何から回収するのか
レアアースが含まれる製品は多岐にわたりますが、回収の対象として検討されてきたのは主に次の3つです。
レアアース回収の主な対象
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| 対象 | 含まれる主なレアアース | 由来する製品 |
|---|---|---|
| 永久磁石 | ネオジム、ジスプロシウム、テルビウム | モーター、HDD、スピーカー、EV駆動系 |
| 蛍光体 | イットリウム、ユウロピウム、テルビウム | 蛍光灯、ブラウン管 |
| ガラス研磨材 | セリウム | 液晶パネル、光学ガラスの製造工程 |
このほか、使用済み自動車のシュレッダーダスト(ASR)や廃二次電池も対象として研究されてきました。
スマートフォン1台を例にとると、振動モーターにネオジムとジスプロシウム、液晶画面にインジウム、ICチップに金・銀・銅・スズ、コンデンサにタンタルなどが使われています。1台あたりの量はごくわずかですが、台数が集まれば資源になるという発想です。
すでに事業化されたもの
「都市鉱山は未着手」と言われがちですが、成果が出ている分野もあります。
蛍光体からのイットリウム回収
JOGMECの技術開発プロジェクトでは、廃蛍光体からイットリウムなどのレアアース元素を分離抽出する技術の研究開発が行われました。この技術を活用した蛍光灯のリサイクルは事業化されています。
セリウム系ガラス研磨材の再生
同じプロジェクトで、使用済みのセリウム系ガラス研磨材を再生処理する技術も開発されました。JOGMECによれば、通常製品と同等の性能を持つ再生品を製造する技術を確立しています。
自動車由来の有価金属回収
使用済み自動車の廃二次電池やシュレッダーダストから、ベースメタル、ニッケル、コバルト、レアアースなどの有価金属を回収する研究開発も行われ、実用化の目処が立ったとされています。
技術を持つ日本企業
レアアースのリサイクルに関わる日本企業は、工程のどこを担うかによって性格が分かれます。
主なプレーヤーと担当領域
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| 企業 | 担当領域 |
|---|---|
| エンビプロ・ホールディングス【5698】 | 磁石からの回収(水素壊砕/HPMS)、リチウムイオン電池リサイクル |
| 松田産業【7745】 | 貴金属・レアアースのリサイクル、分離精製 |
| DOWAホールディングス【5714】 | 非鉄製錬技術を活用した回収。秋田での磁石回収実証 |
| 三菱マテリアル【5711】 | 同上。米ReElement社との提携 |
| エマルションフローテクノロジーズ(非上場) | 溶媒抽出技術。原子力機構(JAEA)発ベンチャー |
| 三井金属【5706】 | レアマテリアル事業部。JOGMECとのリサイクル技術開発 |
各社の技術や財務の詳細は、当サイトの企業分析で個別に扱っています。特に技術の違いが大きいのが、磁石から直接回収する手法と、溶媒抽出で分離する手法です。
企業分析エンビプロ・ホールディングス【5698】徹底解説|都市鉱山からレアアースを救う"環境配慮型リサイクル"の旗手水素壊砕(HPMS)技術とLIBリサイクル事業、収益構造とリスクを解説しています。 企業分析エマルションフローテクノロジーズ徹底解説|原子力機構発の技術で挑む、非上場ベンチャーのレアメタル水平リサイクルJAEA発の溶媒抽出技術と、資金調達・提携実績をまとめています。なぜ広がらないのか
技術があり、企業もあり、国も推進しているにもかかわらず、都市鉱山からのレアアース回収は本格化していません。日本経済研究センターも、都市鉱山の活用が必要であることは長らく指摘されてきたが、いまだにほとんどが未着手であるとしています。
理由は複数あります。
回収する仕組みがなかった
家電リサイクル法の対象は冷蔵庫、エアコン、テレビ、洗濯機などに限られ、パソコンや小型二次電池は資源有効利用促進法の対象でした。一方、携帯電話、ゲーム機、ビデオデッキ、デジタルカメラ、携帯音楽プレーヤーといった小型機器を回収する法律は、長らく存在しませんでした。
これらの機器は大半が一般廃棄物として処理され、含まれるレアメタルは回収されずに埋め立てや焼却に回るか、二次資源・中古品として海外へ流出していました。2013年4月の小型家電リサイクル法施行は、この状況への対応です。
含有量が少なく、集めるコストが高い
製品1台あたりのレアアース含有量はごくわずかです。回収・分別・輸送のコストが、得られる金属の価値を上回れば事業として成立しません。
リサイクル技術には「賞味期限」がある
ここまでの課題は、努力や制度で解決しうるものです。しかし、より構造的な問題を産業技術総合研究所が指摘しています。
産総研は、現時点でのリサイクル技術が確立できたとしても、製品サイクルの早さから、それらの技術が利用できる期間はそれほど長くないとしています。さらに、重要なレアメタルほど省資源化や代替技術が進むため、製品中の含有率は次第に低下していくと指摘しています。
この指摘の意味するところは重いものです。
いま日本企業が競って開発しているのは、ジスプロシウムやテルビウムといった重希土類を使わない磁石です。大同特殊鋼はHondaと共同で重希土類完全フリーのネオジム磁石を開発し、TDKや信越化学も重レアアースの削減・不要化を進めています。
これらの技術が普及すれば、供給リスクは下がります。同時に、将来回収される使用済み製品には、回収すべき重希土類が含まれなくなります。
つまり、ジスプロシウムを回収する技術を完成させた頃には、回収対象の製品からジスプロシウムが消えている可能性があるということです。
産総研は、こうした事情からレアメタルリサイクルを軌道に乗せるためには、将来を予測し、ターゲットを絞った計画的な技術開発が必要になるとしています。「とりあえず回収技術を開発する」では間に合わない。十数年後に何が使われているかを見越して対象を選ぶ必要がある、ということです。
この記事で確認できなかったこと
当サイトでは、裏づけが取れなかった事項を記事の末尾に記しています。
- レアアースの実際の回収率。日本国内で年間どれだけのレアアースが使用済み製品から回収されているかを示す統計に到達できていません。
- 事業化された蛍光灯リサイクルの規模。事業化されたという記述は確認できましたが、処理量や回収量の数値は確認できていません。
- 2012年の優先5鉱種選定のその後の見直し。選定が現在も有効なのか、見直されたのかを示す資料を確認できていません。
この記事の出典
公的研究機関都市鉱山から回収が期待される金属 ~戦略メタルの選定~ 官公庁・独法これまでの成果概要(金属資源開発) 公的研究機関レアメタルリサイクル技術(環境技術解説) 官公庁資料レアメタル・レアアース(リサイクル優先5鉱種)の現状 シンクタンクレアアースの供給途絶リスクをどう考えるか本記事は2026年9月14日時点で確認できた公表資料にもとづいています。本サイトの記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。
