EVとレアアース
1台に何グラム使われ、なぜ中国なしでは作れないのか
EVの駆動モーターには、ネオジムをはじめとするレアアースが不可欠だ。しかしその精製工程の9割超を中国が握っており、2025年4月に中国が輸出規制を発動すると、日本の自動車メーカーは一時生産停止に追い込まれた。EV1台に何グラムのレアアースが使われ、なぜ中国なしでは作れないのか。そしてリサイクルで解決できるのか。公表資料にもとづいて整理する。
EVのモーターはなぜネオジム磁石でなければならないのか
電気自動車の心臓部は駆動モーターである。このモーターの性能を決めるのが永久磁石で、使われているのがネオジム磁石だ。
永久磁石にはフェライト磁石という選択肢もある。フェライト磁石は安価で安定しているが、EVの駆動用モーターで同等の出力密度を得ようとすると、モーターが大型化する。重量増は車両の電費悪化に直結する。小型・軽量のまま高出力を実現できるのがネオジム磁石であり、これがEV用途に選ばれてきた理由である。
ただしネオジム磁石にも弱点がある。高温に弱い。モーターの内部温度は走行中に100度Cを超えることがある。この温度域ではネオジム磁石の磁力が大幅に低下する。これを補うために添加されるのが重レアアース——ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)だ。
つまりEVのモーターには、ネオジム(Nd)・プラセオジム(Pr)という軽レアアースと、ジスプロシウム・テルビウムという重レアアースの両方が必要になる。
EV1台に使われるレアアースの量
経済産業省が2023年1月に策定し2025年6月に改定した「永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針」は、EV向けネオジム磁石の世界需要が2017年の0.8万トンから2030年には4.1万トンまで増加するという試算を示している。
EV1台に搭載されるネオジム磁石の量は、モーターの構成によって異なるが、駆動用モーターに1〜2kg程度が使われることが業界資料では示されている。
EV1台のネオジム磁石に含まれる主な元素
← 横にスクロールできます →
| 元素 | 分類 | 役割 | 産出地の偏在 |
|---|---|---|---|
| ネオジム(Nd) | 軽レアアース | 磁石の主成分・磁力の源 | 中国が主要産地だが複数国で産出 |
| プラセオジム(Pr) | 軽レアアース | ネオジムと置換・磁力補助 | 同上 |
| ジスプロシウム(Dy) | 重レアアース | 高温での耐熱性を付与 | 中国南部のイオン吸着鉱に偏在 |
| テルビウム(Tb) | 重レアアース | ジスプロシウムと同じ耐熱補助 | 同上 |
特に問題とされているのが重レアアースだ。ジスプロシウムとテルビウムは軽レアアースに比べて産出量が少なく、中国南部のイオン吸着鉱と呼ばれる特定の地質にほぼ偏在している。これが供給リスクの根幹をなす。
なぜ中国なしでは作れないのか
レアアースの問題は「埋蔵量」ではなく「精製工程」にある。この構造は中国はなぜレアアースの分離を握れたのかで詳しく扱っているが、EV文脈で改めて確認しておく。
日本総合研究所が2025年12月に公表したレポートによれば、レアアースの生産量は中国が世界全体の約69%(2024年・米地質調査所データ)を占め、精製については9割超が中国に集中している。採掘よりも精製の偏在が深刻な理由は、分離・精製工程の技術的難度と環境負荷にある。
重レアアース(ジスプロシウム・テルビウム)はとりわけ偏在が著しい。財務省が2025年に公表したコラムは、レアアースを使用する自動車部品の調達が滞り、日本の自動車メーカーが一時生産停止に追い込まれたと記している。これは2025年4月の輸出規制発動後の事態を指す。
精製工程を中国に依存している以上、採掘地を多様化しても磁石の生産は止まりうる。EVの普及が進むほど、この構造的なリスクは大きくなる。
2025年の輸出規制で何が起きたか
2025年4月4日、中国商務部・海関総署は中・重希土類7元素(サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム)の関連品目について輸出管理を即日実施した(商務部・海関総署公告2025年第18号)。対象品目の輸出には中国国務院商務主管部門への許可申請が必要となり、事実上の輸出制限となった。
背景には米中対立がある。米国が対中関税を強化したことへの対抗措置として発動された。
ジェトロが2026年に公表した分析によれば、特にサマリウム・ジスプロシウム・テルビウムの3元素への影響が大きく、永久磁石の製造と、それを組み込む自動車・産業機械の幅広い産業に波及した。
その後、2025年10月30日の米中首脳会談を経て、中国は10月9日に発表した追加措置の実施を1年間停止すると発表した。4月の措置については継続しているが、規制の範囲と運用は交渉の経緯によって変動しており、先行きは不透明な状態にある。
輸出規制の影響として「納車の遅れ」が語られることがあるが、輸出規制から納車遅延までの直接的な因果関係を示す公表資料は確認できなかった。生産停止については財務省のコラムに記述がある。
日本メーカーはどう動いているか
この構造的リスクに対して、日本のメーカーと政府は複数の方向で動いている。
重希土類フリー磁石の開発。プロテリアルは2025年7月、重希土類を全く使用せずEV駆動モーターにも使用可能な高性能ネオジム焼結磁石の開発に成功したと発表した。同社は世界で600を超えるネオジム焼結磁石の特許を持つ。経済産業省は2023年度から、EV駆動用モーターと重希土類フリー磁石を一体で開発する企業を基金事業で支援しており、この取り組みによって重希土類の使用量を現行から約半減できる可能性が示されている。
省ネオジム磁石の開発。トヨタ自動車はNEDOの事業の一環として、テルビウム・ジスプロシウムを使わず、かつネオジムの一部をランタン・セリウムに置き換えた「省ネオジム耐熱磁石」を開発している。軽レアアースの中でも比較的安価で豊富な元素への代替を図るアプローチだ。
調達先の多様化。経済産業省はJOGMECを通じてフランス企業による重希土類の生産事業に約1億ユーロ(約162億円)を出資し、生産される重希土類の50%を日本向けに長期供給する契約を締結した。将来的には国内需要の2割相当の調達が見込めるとしている。
これらの取り組みは中国依存を減らす方向に向かっているが、完全に脱却できる見通しは現時点では示されていない。プロテリアルの事業構造についてはプロテリアルの企業分析も参照されたい。
使用済みEVからレアアースを取り戻せるか
供給リスクへの対応として、もう一つの軸がリサイクルだ。EVが大量に普及すれば、将来的に廃車から大量のネオジム磁石が回収できる。これを都市鉱山として活用できれば、採掘・輸入への依存を減らせる。
資源エネルギー庁が2025年に公表した「エネルギー白書2025」は、廃磁石からのレアアース原料のリサイクル技術開発への支援を実施していると明記している。経済産業省は省レアアース型磁石の開発と並行して、リサイクル技術の確立を政策的な柱として位置づけている。
民間では、DOWAエコシステムが2025年11月に秋田県でネオジム磁石回収の実証試験を開始した。また三徳・信越化学工業は研磨粉などを湿式処理してレアアースを回収する取り組みを進めている。
ただしみずほ銀行産業調査部が2025年5月に公表したレポートは、使用済みネオジム磁石リサイクルの事業化の見通しは立っていないと指摘している。課題は2つある。第一に、EVが大量に廃車になるのはまだ先であり、回収できる磁石の量が現時点では少ない。第二に、モーターに組み込まれた磁石を取り出す分解工程が難しく、経済的な合理性を確保しにくい。
リサイクルは中長期的な解決策として有望だが、現在の輸出規制リスクに対する即効性はない。
この記事で確認できなかったこと
以下は、公表資料で裏づけが取れなかった事項である。
- EV1台あたりのネオジム磁石使用量の公式な数値。「1〜2kg」は業界資料に基づく数値であり、車種やモーター構成によって異なる。経済産業省の取組方針には総需要の推計はあるが、1台あたりの数値は示されていない
- 輸出規制から納車遅延までの直接的な因果関係を示す公表資料
- 重希土類フリー磁石の量産コストと既存磁石との比較。開発成功の公表はあるが、コスト競争力については確認できていない
- 国内リサイクルが輸入依存を何割代替できるかの試算
【依拠した資料】経済産業省「永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針」(令和5年1月19日策定、令和7年6月23日改定)/財務省大臣官房総合政策課「戦略物資としての側面を得た中国産レアアース」(2025年)/日本総合研究所「中国によるレアアース輸出規制の行方」(2025年12月)/ジェトロ「中国のレアアース輸出管理(1)日本への磁石輸出に大きな影響」(2026年)/中国商務部・海関総署公告2025年第18号(2025年4月4日)/株式会社プロテリアル プレスリリース「EV駆動モーター用高性能重希土類フリーネオジム焼結磁石を開発」(2025年7月22日)/トヨタ自動車株式会社ニュースリリース「省ネオジム耐熱磁石の開発」/資源エネルギー庁「エネルギー白書2025」第2部第1章第3節/DOWAエコシステム株式会社 プレスリリース「秋田県でネオジム磁石回収の実証試験を開始します」(2025年11月)/みずほ銀行産業調査部「非鉄金属〜リサイクルを通じた鉱物資源の確保に向けて」(2025年5月30日)。いずれも2026年9月閲覧。
本記事は公表資料にもとづく記録であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。
