レアアースの国家備蓄は何日分あるのか
60日という数字の由来と、2025年の制度見直し
石油の備蓄、米の備蓄は、ニュースで見聞きする機会があります。では、レアアースが国によって備蓄されていることは、どのくらい知られているでしょうか。制度は1983年からあり、レアアースもその対象に含まれています。この記事では、日本のレアメタル備蓄制度について、公表資料で確認できる範囲を整理します。あわせて、よく引用される「60日分」という数字がいつ決められたものなのかも見ていきます。
ガソリンや米は聞くが、レアアースの備蓄は知られていない
国家備蓄という言葉から多くの人が思い浮かべるのは、石油と米ではないでしょうか。石油備蓄は大規模な基地が全国にあり、放出が決まればニュースになります。米も、備蓄米の放出が報じられれば店頭価格の話とセットで語られます。
レアアースの備蓄が同じように語られることは、ほとんどありません。しかし制度としては40年以上前から存在し、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が実施しています。
この知られ方の差には理由があります。それは制度の根拠となる法律と、官民の役割分担が、石油とレアメタルではまったく違うからです。この記事の後半で、その違いを見ていきます。
制度は1983年、石油危機のあとに始まった
日本のレアメタル備蓄制度は、昭和58年度(1983年度)に創設されました。きっかけは1973年と1979年の2度の石油危機です。資源を輸入に頼る日本の経済基盤の脆弱性が改めて認識され、審議会報告を受けて官民協力による制度として始まりました。
創設当初の対象は7鉱種でした。ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン、タングステン、コバルト、バナジウム。いずれも供給の大半を海外に依存し、かつ供給リスクが比較的大きいものが選ばれています。
この時点ではレアアースは対象に入っていません。当時のレアアースは、現在ほど産業の基幹に位置していませんでした。ネオジム磁石が発明されたのが1982年で、その用途が広がるのはさらに後のことです。
「60日分」は1986年に決められた数字
レアメタル備蓄について語られるとき、最もよく引用されるのが「国内基準消費量の60日分」という数字です。
資源エネルギー庁の説明によれば、この備蓄目標日数は1986年(昭和61年)の鉱業審議会で設定されたものです。40年前に決められた数字が、長く運用の基準であり続けてきたことになります。
もう一点、注意が必要なことがあります。この60日は国家備蓄だけの数字ではありません。
国家備蓄と民間備蓄を合わせて60日分という目標であり、内訳は国家備蓄が42日分(全体の7割)、民間備蓄が18日分(全体の3割)とされてきました。また、一部の鉱種については30日分とされています。「国が60日分持っている」という理解は、正確ではありません。
資源エネルギー庁は、産業構造の変化、レアメタルの重要性の高まり、中国の寡占化といった情勢を踏まえ、現在のリスク状況に見合った備蓄量への見直しを行うとしています。
レアアースは34鉱種のひとつ
現在の備蓄対象は34鉱種(55元素)に拡大しています。経済産業省の資料では、対象は次のように示されています。
リチウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、タリウム、ビスマス、REE(レアアース)、PGM(白金族)、炭素、フッ素、マグネシウム、シリコン。
ここで一点、押さえておきたいことがあります。レアアースは17元素をまとめて「REE」という1鉱種として扱われています。ネオジムとジスプロシウムでは供給リスクの構造がまったく違いますが、鉱種の区分の上では同じ枠に入ります。
なお経済産業省の2024年の資料では、リンを追加して全体で35鉱種とする方針も示されています。
石油備蓄との決定的な違い
冒頭で触れた「知られ方の差」の理由が、ここにあります。石油備蓄とレアメタル備蓄は、制度の骨格が異なります。
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| 項目 | 石油備蓄 | レアメタル備蓄 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 石油備蓄法 | JOGMEC法 |
| 備蓄主体 | 国(備蓄物資は国有資産)。管理は国からJOGMECに委託 | JOGMEC(備蓄物資はJOGMECの資産) |
| 民間の備蓄義務 | あり(70日分) | なし |
| 保管 | 全国の国家石油備蓄基地 | JOGMECの倉庫で一元管理 |
出典:経済産業省「レアメタル備蓄制度の見直しについて(参考)」(総合資源エネルギー調査会 資料5-2)。数値は令和2年度時点のもの。
石油には専用の法律があり、民間事業者に70日分の備蓄が義務づけられています。一方レアメタルには、民間に備蓄義務がありません。備蓄物資の所有者も、国ではなくJOGMECです。
制度の重みが違う、と言い換えることもできます。石油は法律で国民生活のインフラとして扱われ、レアメタルは資源機構の事業のひとつとして運営されてきました。ニュースになる頻度の差は、この制度上の位置づけの差をそのまま映しています。
2025年、制度が抜本的に見直された
2025年、経済産業省は産業構造審議会の場でレアメタル備蓄制度の見直しを行いました。
それまでの運用には課題がありました。国が備蓄方針を具体的に示しておらず、主として審議会報告書を通じて提示される形だったこと。買入と放出で別々に計画を策定していたため、緊急時の放出までに時間を要したこと。
見直し後の制度では、国が策定する「備蓄に係る基本方針」に基づき、JOGMECが国の同意を得て買入・放出を統合した備蓄計画を策定します。計画には備蓄鉱種、備蓄目標日数、買入・放出する鉱種や品目、数量、金額、時期などが盛り込まれます。
あわせて、備蓄目標の設定方法も変わる方向が示されています。これまでの民間備蓄と国家備蓄を合わせた目標から、国家備蓄単独での目標設定へ。さらに、産出国の政情不安などリスクの高い鉱種・品目では目標日数を多めに、供給が安定した鉱種・品目では少なく設定するなど、鉱種ごとの柔軟な対応を行うとしています。
一律60日という40年前の基準から、リスクに応じた設定へ。これが見直しの方向性です。
180日という数字はどこから来たのか
レアアースの備蓄について、「180日分への引き上げ」という数字を目にすることがあります。この数字の出所を確認しました。
日本経済研究センターの解説によれば、これまで民間備蓄と合わせ需要量の60日分を目標としてきたが、地政学的なリスクの高い鉱物についてはより高い目標(例えば180日分)を設定することもあり得るとしている、という記述になっています。出典として国際エネルギー機関(IEA)の政策データベースが挙げられています。
【確定した事実ではありません】公表資料で確認できる範囲では、180日は「設定することもあり得る」という例示であり、レアアースについて180日分という目標が決定されたことを示す一次情報は、本記事の作成時点では確認できませんでした。
制度見直しの方向として「リスクの高い鉱種は目標日数を多めに」という考え方が示されているのは事実です。しかし、レアアースについて具体的に何日分とするかは、今後策定される備蓄計画で決まるものと考えられます。
当サイトでは過去の記事において、180日分程度への引き上げが進められていると記載していました。この記述は「あり得るとされている」段階の内容を、決定事項として書いたものです。該当記事は訂正します。
いま何がどれだけあるかは、公表されていない
ここまで制度の枠組みを見てきましたが、では実際に現在どの鉱種がどれだけ備蓄されているのか。
JOGMECの公式サイトの「レアメタル備蓄とは」のページには、備蓄の目的と役割は説明されていますが、備蓄目標日数も、対象鉱種の一覧も、現在の備蓄量も記載されていません。
備蓄量の非開示自体には合理性があります。どの資源をどれだけ持っているかが分かれば、供給を絞る側にとっては有用な情報になります。石油備蓄についても、国際的に詳細な数量が随時公開されているわけではありません。
ただ、結果として一般の読者が制度の全体像を知る手がかりは限られます。制度の詳細を確認しようとすると、経済産業省の審議会資料まで遡る必要があります。レアアースの備蓄が知られていない理由は、制度の位置づけだけでなく、こうした情報のたどりにくさにもあると考えられます。
この記事で確認できなかったこと
当サイトは、一次情報で裏づけが取れなかった事項を記事の末尾に記載しています。
- レアアースの現在の備蓄量と備蓄日数。JOGMEC・経済産業省の公表資料では確認できませんでした
- レアアースが備蓄対象に追加された時期。創設時の7鉱種には含まれておらず、その後34鉱種へ拡大する過程で追加されたと考えられますが、追加年を特定できる資料は確認できませんでした
- 見直し後の備蓄計画の策定状況。レアアースについて具体的な目標日数が設定されたかどうかは確認できませんでした
本記事は、経済産業省「レアメタル備蓄制度の見直しについて(参考)」(総合資源エネルギー調査会 資料5-2)、同「鉱物政策を巡る状況について」(2024年10月28日、産業構造審議会 資料3)、資源エネルギー庁「日本の新たな国際資源戦略 ③レアメタルを戦略的に確保するために」、JOGMEC「レアメタル備蓄とは」、日本経済研究センター「レアアースの供給途絶リスクをどう考えるか」(2026年2月)にもとづいて作成しています。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品・銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。
