テスラはレアアースをやめられるのか
2023年の宣言とOptimusの磁石問題
2023年3月、テスラは投資家向けイベントで「次世代モーターにレアアースを一切使わない」と宣言した。EV最大手による脱レアアース宣言は業界に衝撃を与えた。それから3年、宣言は実現したのか。そして同社の人型ロボットOptimusは、中国の輸出規制によって何が起きたのか。公表資料と報道記録にもとづいて整理する。
この記事の出典レベルについて
本記事のテスラに関する記述の一部は、同社のInvestor Dayおよび決算説明会での口頭発言に基づく。これらは動画・音声で公開されているが、当サイトはテキストの公式記録に到達できていない。該当箇所はReuters等の報道記録に依拠しており、本文中で出典を明示している。同社が文書として公表している資料(IRサイトの四半期アップデート、米国証券取引委員会への提出書類)とは出典レベルが異なる点にご留意いただきたい。
2023年、テスラは「レアアースゼロ」を宣言した
2023年3月1日、テスラはテキサス州で投資家向けイベント「Investor Day」を開催した。この場で、パワートレイン技術担当のColin Campbell氏が、次世代のドライブユニットは永久磁石モーターを採用するが、レアアース材料を一切使わない設計にした、という趣旨の発言をしたと複数の媒体が報じている。
あわせてテスラは、Model 3の投入以降、パワートレインのレアアース使用量を25%削減したことを示すスライドを公開した。次世代モーターについては使用量が「0」と表示されていた。
ただしこの発表には、重要な情報が欠けていた。現行モーターにどのレアアース元素をどれだけ使っているのか、代替として何を使うのか、いつ量産するのか。いずれも明かされなかった。
テスラはなぜレアアースを使うようになったのか
意外に思われるかもしれないが、テスラは元々レアアースを使っていなかった。
初代Model SとModel Xが採用したのは誘導モーターである。銅のローターを用いる方式で、永久磁石を必要としない。社名の由来であるニコラ・テスラが発明したのが、この交流誘導モーターだった。
転機は2017年のModel 3である。テスラはリアのドライブユニットに永久磁石同期モーターを採用した。ネオジム磁石を使う方式で、出力密度と効率の面で誘導モーターを上回る。
この選択によって、テスラは自ら回避していたレアアースのサプライチェーンに入ることになった。EVとレアアースの関係で整理したとおり、ネオジム磁石は高温環境での磁力低下を防ぐためにジスプロシウムやテルビウムといった重レアアースの添加を必要とする。これらは中国南部に偏在している。
2023年の宣言は、この依存から抜け出すという意思表示だった。
レアアースを使わない永久磁石は成立するのか
永久磁石にはネオジム磁石以外の選択肢がある。最も現実的なのはフェライト磁石だ。安価で供給も安定しており、レアアースを含まない。
問題は性能である。フェライト磁石はネオジム磁石に比べて磁力が大幅に劣る。ある技術評価では、フェライト磁石の最大エネルギー積はネオジム磁石の約9分の1にとどまるとされている。
これを補うには、磁石の量を増やすか、モーターを大型化するしかない。プロテリアル(旧日立金属)が2022年に公表したフェライト磁石モーターの設計例では、ネオジム磁石モーターと同等の出力・最高回転数を実現したが、重量は30%増加した。
EVにおいて重量増は電費の悪化に直結する。航続距離が縮む。これがフェライト磁石への転換が長らく進まなかった理由である。
永久磁石の選択肢とトレードオフ
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| 方式 | レアアース | 磁力 | 課題 |
|---|---|---|---|
| 誘導モーター | 不要 | 永久磁石を使わない方式 | 効率で永久磁石方式に劣る |
| ネオジム磁石 | Nd・Pr・Dy・Tb | 最も強い | 供給リスク・価格変動 |
| フェライト磁石 | 不要 | ネオジム磁石の約9分の1 | 重量増・大型化 |
テスラが何を採用するのかは、2023年の発表では明かされなかった。業界ではフェライト磁石が有力視されているが、同社は公表していない。
2026年、宣言は実現しているか
結論から言えば、確認できていない。
テスラがIRサイトで公開している四半期アップデート資料には、レアアースフリーモーターの量産開始に関する記述が見当たらない。2026年時点で、レアアースを使わないドライブユニットの商用展開が公式に確認されたという情報は得られなかった。
これは失敗を意味するものではない。自動車のパワートレインの刷新には長い開発期間を要する。ただし、2023年の宣言から3年が経過し、実装時期についての公式なアップデートがない状態が続いていることは、事実として記録しておく価値がある。
Optimusで起きた「磁石問題」
皮肉なことに、テスラのレアアース依存はEV以外の領域で顕在化した。
2025年4月4日、中国商務部・海関総署は中・重希土類7元素(サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム)の関連品目について輸出管理を即日実施した。米国の関税措置への対抗として発動されたものである。
その約3週間後、2025年4月22日のテスラ第1四半期決算説明会で、イーロン・マスク氏が人型ロボットOptimusの生産への影響に言及した。Reutersの報道によれば、マスク氏は中国が磁石の輸出に許可を求めていること、テスラが中国当局と許可取得に向けて協議していることを説明した。中国側は磁石が軍事目的に使われないという保証を求めており、マスク氏はこれが人型ロボットに搭載されるものであり兵器システムではないという趣旨の説明をしたと報じられている。
Optimusの各アクチュエーター(関節駆動部)には、高性能なネオジム磁石が使われている。人型ロボットが二足歩行するには高い出力密度が必要で、それを実現できるのがネオジム磁石だからである。
Optimus 1体あたりの磁石使用量について「約3.5kg」という数値が業界分析で流通しているが、テスラの公表資料では確認できなかった。当サイトはこの数値の一次的な出所を特定できていない。
注目すべきは、テスラが文書として公表している第1四半期のアップデート資料には、この磁石問題への言及がないことである。Optimusについては、Fremontのパイロット生産ラインでの製造が2025年に予定どおり進む見込みであると記載されているのみだ。供給網の問題は、質疑応答での口頭発言としてのみ表に出た。
日本メーカーとのアプローチの違い
脱レアアースという目標は共通していても、進め方には違いがある。
テスラ:使わない設計に切り替える。永久磁石そのものをレアアースフリーの材料に置き換える方向。実現すれば依存はゼロになるが、性能面のトレードオフを設計全体で吸収する必要がある。
プロテリアル:重希土類だけを外す。2025年7月、同社は重希土類を全く使用せずEV駆動モーターにも使用可能な高性能ネオジム焼結磁石を開発したと発表した。ネオジムは使い続けるが、偏在が著しいジスプロシウム・テルビウムを外す。性能を維持しながらリスクの高い部分だけを削る現実的なアプローチである。
トヨタ:ネオジムも減らす。NEDOの事業の一環として、テルビウム・ジスプロシウムを使わず、さらにネオジムの一部を安価で豊富なランタン・セリウムに置き換えた「省ネオジム耐熱磁石」を開発している。
日本メーカーは磁石メーカーとしての技術的蓄積を持つため、材料側から段階的に依存を減らす道を選んでいる。テスラは磁石メーカーではないため、モーター設計側から問題を解こうとしている。どちらが正しいかを判断できる段階にはない。
プロテリアルの事業構造についてはプロテリアルの企業分析で詳しく扱っている。
この記事で確認できなかったこと
以下は、公表資料で裏づけが取れなかった事項である。編集方針として、確認できたことと確認できなかったことを区別して記録している。
- Investor Day 2023および決算説明会での発言のテキスト公式記録。テスラは動画・音声で公開しているが、テキスト版の公式トランスクリプトに到達できなかった。本記事の該当箇所はReuters等の報道記録に依拠している
- テスラが現行モーターに使用しているレアアース元素の種類と量。同社は非公表としている
- 次世代モーターで採用される代替材料。フェライト磁石が有力視されているが、テスラは公表していない
- レアアースフリーモーターの量産開始時期
- Optimus 1体あたりの磁石使用量。業界分析では約3.5kgとされるが、一次的な出所を特定できていない
- 磁石の輸出許可がその後どうなったか。2026年時点で、テスラが問題の解決を公式に発表した記録は確認できなかった
【依拠した資料】Tesla, Inc. Investor Relations(ir.tesla.com)掲載の四半期アップデート資料およびプレスリリース/米国証券取引委員会(SEC)提出のForm 8-K/Reuters報道(2025年4月22日のテスラ第1四半期決算説明会に関する報道)/株式会社プロテリアル プレスリリース「EV駆動モーター用高性能重希土類フリーネオジム焼結磁石を開発」(2025年7月22日)/トヨタ自動車株式会社ニュースリリース「省ネオジム耐熱磁石の開発」/中国商務部・海関総署公告2025年第18号(2025年4月4日)。いずれも2026年9月閲覧。
本記事は公表資料および報道記録にもとづく記録であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。
