風力発電とレアアース
日本は世界の1%、風車1基に眠るネオジム磁石
風力発電はクリーンなエネルギーとして知られている。だが日本の導入量は世界全体の約1%にすぎない。しかも風車の発電機には、EVの駆動モーターを大きく上回る量のネオジム磁石が使われている。つまり風力を増やすほど、レアアースの需要は増える。日本の風力発電は今どこにいて、資源の面で何を抱えているのか。公表資料にもとづいて整理する。
日本の風力発電は、世界の約1%
まず規模の話から始めたい。
資源エネルギー庁の「エネルギー白書2025」に基づく整理によれば、日本の風力発電の導入量は世界全体の約1%である。年々伸びてはいるが、この比率は長く大きく変わっていない。
日本風力発電協会(JWPA)が公表した2025年12月末時点の数値では、国内の累積導入量は6,434.2MW(2,866基)。2025年の新規導入量は625.0MW(171基)だった。
この数字をどう見るか。参考になるのが内訳である。導入量の約96%は陸上風力で、洋上風力は約4%にとどまる。しかも立地は北海道・青森・秋田など北日本に偏っている。風況が良い場所が限られており、そこは電力の大消費地から遠い。
日本の風力発電の現在地(2025年12月末時点)
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| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 累積導入量 | 6,434.2MW(2,866基) |
| 2025年の新規導入量 | 625.0MW(171基) |
| 陸上/洋上の内訳 | 陸上が約96%、洋上が約4% |
| 世界に占める割合 | 約1% |
| 累積導入量1位の都道府県 | 北海道 |
出典:日本風力発電協会「2025年12月末時点日本の風力発電の累積導入量」、資源エネルギー庁「エネルギー白書2025」
なぜ日本は増えなかったのか
理由は複数ある。
第一に地形である。日本は国土の多くが山地で、風車を建てられる平坦地が限られる。加えて、風力発電で得られるエネルギーは風速の3乗に比例するため、年間を通じて安定した強風が吹く場所でなければ採算が合わない。
第二に規制である。2012年10月から総出力1万kW以上の大型風力発電所が環境アセスメントの対象となり、事業化までの期間が長期化した。
第三に系統整備である。風況の良い北日本と、電力需要の大きい首都圏・関西圏は離れている。送電網が足りなければ、発電しても運べない。
こうした制約があるため、日本の風力の伸びしろは洋上に求められてきた。四方を海に囲まれた国土は、洋上風力にとっては有利な条件になりうる。
洋上風力に何が起きているか
ここで、2025年に起きた出来事を記録しておく必要がある。
2025年8月27日、三菱商事は国内洋上風力発電事業に係る事業性再評価の結果を公表し、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖の3海域の開発を取り止めると発表した。
この3海域は、再生可能エネルギー海域利用法にもとづく公募の第1ラウンドで、三菱商事を中心とする企業連合が2021年12月にすべて落札したものである。3海域合計で約174万kWという規模だった。国が洋上風力を再生可能エネルギー主力電源化の柱と位置づけ、その第一歩として実施した公募だった。
経済産業省資源エネルギー庁と国土交通省港湾局が2025年12月にまとめた「洋上風力発電に係る第1ラウンド公募事業の撤退要因等の分析」は、撤退の要因を分析している。公募開始(2020年11月)から撤退公表(2025年8月)までの間に、物価指数、為替、金利がいずれも上昇した。洋上風力は資材費が建設コストの大部分を占め、主要部品を欧州等からの輸入に依存し、多額の借入も必要とする事業である。三菱商事へのヒアリングによれば、風車の調達費用は公募参加時の見込みから2倍以上に増加したという。
同資料は、この撤退が国内サプライチェーンの整備にも影響を与えることを懸念事項として挙げている。事業リスクが過大に捉えられれば、サプライヤーの投資が遅れ、産業基盤が育たないという指摘である。
洋上風力の拡大について、推進側は脱炭素と資源安全保障を根拠とし、慎重な立場からは電気料金への転嫁、事業採算性、系統整備の遅れなどが指摘されている。当サイトはどちらの立場も取らず、公表されている事実の記録に徹する。
風車1基に、どれだけのネオジム磁石が使われるのか
ここからが本題である。
風力発電機には大きく2つの方式がある。増速機(ギア)を介して発電機を回す方式と、増速機を使わず風車の回転を直接発電に使うギアレス方式(直接駆動方式)である。
ギアレス方式で使われるのが永久磁石式多極同期発電機だ。ローターに多数の磁石を配列して多極化することで、低速回転でも高出力が得られる。この磁石にネオジム磁石が使われる。ギアという故障しやすい部品を省けるため、メンテナンスが困難な洋上風力では特に有利とされている。
使用量の規模感は、経済産業省の資料から推し量ることができる。
経済産業省が2023年1月に策定し2025年6月に改定した「永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針」は、風力発電向けネオジム磁石の世界需要が2017年の0.8万トンから2030年には4.1万トンまで増加するという試算を引用している。約5倍である。
同資料はまた、電動車の駆動モーター向けネオジム磁石の世界需要が2017年の0.6万トンから2040年に16.1万トンまで増加するという試算も示している。EVのほうが台数が桁違いに多いため総量では上回るが、風力発電1基あたりの磁石使用量はEV1台とは比較にならない大きさになる。
風力を増やすほど、中国依存は深まるのか
ここに構造的な問題がある。
EVとレアアースの関係で整理したとおり、ネオジム磁石の生産は中国に大きく偏っている。経済産業省の同じ資料も、ネオジム磁石において中国が世界最大の生産国であることを明記している。
脱炭素のために風力発電を増やすと、ネオジム磁石の需要が増える。その磁石の供給を中国に依存している。2025年4月に中国が中・重希土類7元素の輸出管理を実施したように、この依存は政治的な圧力に転じうる。
再生可能エネルギーは資源の輸入依存から脱するための手段として語られることが多い。だが発電設備そのものが特定国に依存した材料でできているなら、依存の形が変わっただけとも言える。この点は、洋上風力を推進する議論のなかで十分に語られてこなかった側面である。
リサイクルという出口
対策の一つとして、使用済み磁石のリサイクルが挙げられている。
経済産業省の「永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針」は、電動車の駆動モーターと風力発電の設置台数に基づく試算として、ネオジム磁石の回収見込み数量を示している。2020年に約300トン、2030年に約1,000トン、2040年に約2,500トン、2050年には約5,000トンという推計である。
風力発電設備の寿命は20年程度とされる。2000年代以降に建てられた風車が順次更新期を迎えれば、回収できる磁石の量は増えていく。
ただし課題もある。DOWAエコシステムが2025年11月に秋田県でネオジム磁石回収の実証試験を開始した際のリリースは、磁石を内包する機械類の分解の困難さが経済的な合理性を得るうえでの課題であると指摘している。風力発電機の場合、設置場所が山間部や洋上であることも回収コストを押し上げる要因になる。
この記事で確認できなかったこと
以下は、公表資料で裏づけが取れなかった事項である。
- 風力発電機1基あたりのネオジム磁石使用量の具体的な数値。経済産業省の資料には世界需要の総量試算はあるが、1基あたりの数値は示されていない
- 日本国内に設置されている風力発電機のうち、ギアレス方式(永久磁石式)が占める割合
- 国内の風力発電設備に使われているネオジム磁石の調達先の内訳
- 洋上風力の再公募の具体的な時期と条件。2025年12月時点で制度の見直しが進められている段階である
【依拠した資料】一般社団法人日本風力発電協会「2025年12月末時点日本の風力発電の累積導入量」/資源エネルギー庁「エネルギー白書2025」/経済産業省「永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針」(令和5年1月19日策定、令和7年6月23日改定)/経済産業省資源エネルギー庁・国土交通省港湾局「洋上風力発電に係る第1ラウンド公募事業の撤退要因等の分析」(令和7年12月)/三菱商事株式会社プレスリリース「国内洋上風力発電事業に係る事業性再評価の結果について」(2025年8月27日)/DOWAエコシステム株式会社プレスリリース「秋田県でネオジム磁石回収の実証試験を開始します」(2025年11月)/TDK株式会社技術情報サイト掲載の風力発電機と磁石に関する解説。いずれも2026年9月閲覧。
本記事は公表資料にもとづく記録であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。
