レアアースと放射性物質
なぜ「きれいな資源」になれないのか
レアアースは、風力発電機のモーターにも、電気自動車にも、スマートフォンにも入っている。脱炭素を支える金属として語られることが多い。だが、それを地中から取り出して使える形にするまでの工程は、けっして「きれい」ではない。ほぼ必ず、放射性物質がついてくるからである。この記事は、その全体像を地図として示す。個別のテーマは、それぞれの記事に分けて書いている。
まず結論——問題は掘る場所ではなく、分ける工程にある
レアアースの話でよく誤解されるのが、「中国に資源が偏在しているから中国が強い」という理解である。実際には、レアアースの埋蔵量そのものは世界中に分布している。
中国が圧倒的なのは、掘った後の分離・精製の工程である。そして、この工程こそが放射性物質の問題が発生する場所でもある。鉱石の中でレアアースと同居していたトリウムやウランは、精製の過程で製品側には残らず、廃液や残渣の側に濃縮されていく。
レアアースを精製すればするほど、放射性物質を含む残りものが積み上がる。この構造が、どの国がレアアース産業を持てるかを決めてきた。技術でも価格でもなく、まず「その残りものを引き受けられるか」が問われる。
分離・精製がボトルネックである理由そのものについては、精製ボトルネックの解説で扱っている。
なぜレアアース鉱石に放射性物質が伴うのか
レアアース元素と、トリウム・ウランは、イオン半径が近い。そのため鉱物ができるとき、同じ結晶構造の中へ一緒に取り込まれやすい。偶然の混入ではなく、化学的な必然に近い。
ただし、すべての鉱石が同じではない。ここに大きな差がある。
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| 鉱石の種類 | 主な産地 | 放射性物質 |
|---|---|---|
| モナザイト | 豪州、インド、ブラジルなど | トリウムを含む |
| バストネサイト | 米国、中国(内モンゴル)など | モナザイトより少ないが伴う |
| イオン吸着鉱 | 中国南部(福建・広東・江西) | 風化鉱床のため含まない |
日本の制度上も、モナザイトとバストネサイトは、ジルコンやリン鉱石などとともに「指定原材料」として位置づけられている。レアアースを扱うことは、制度の上では放射性物質を含みうる原材料を扱うことだった。
詳しくは日本が1972年にモナザイトを手放した理由で扱っている。
日本は1972年に何を手放したのか
1968年、原子炉等規制法が改正され、放射性廃棄物の投棄や保管に厳重な管理が必要になった。日本希土類学会の学会誌に収められた講演記録によれば、その後1970年頃からモナザイトに代わってバストネサイトや水酸化レアアースへと原料が切り替わり、1972年以降は国内でのモナザイト処理がなくなったとされる。
ここで正確に読むべきなのは、日本がレアアース精製そのものをやめたわけではないという点である。やめたのは「モナザイトという原料を国内で処理すること」であり、放射性物質の負担が小さい原料形態へ切り替えた。撤退ではなく、原料転換だった。
中国依存の起点は、価格や埋蔵量だけではない。放射性廃棄物をどう扱うかという判断が、そこに含まれている。この経緯は1972年の記事で詳しく追った。
中国が握ったのは環境の緩さだけではない
「中国は環境を考えなかったから技術を手に入れた」という説明を見かける。だが、公表資料をたどると、これは単純化しすぎている。少なくとも三つの層がある。
一つ目は地質条件である。中国南部の福建省、広東省、江西省で多く産出されるイオン吸着鉱は風化鉱床であるため、放射性物質を含まない。したがって処理費用がかからない。これに対し、中国以外の鉱山はほとんどがバストネサイトとモナザイトであり、漏れなく放射性物質処理の問題に直面する。
二つ目は技術的蓄積である。中国科学院の公表資料によれば、化学者の徐光憲はレアアースの溶媒抽出系に「恒定混合抽出比」の法則があることを見出し、1970年代に串級抽出理論(カスケード抽出理論)を確立した。これは中国のレアアース分離工業に広く応用された。徐光憲は1978年に全国科学大会奨、2008年度には国家最高科学技術奨を受けている。
三つ目が環境コストの負担のあり方の違いである。ただし2010年代以降、中国も違法採掘の取り締まりや企業統合、環境規制の強化を進めており、現在形で「環境を無視している」と書くのは実態とずれる。
この三層をより詳しく追ったのが中国はなぜレアアースの分離を握れたのかである。外国技術が適合しない資源から出発した経緯、1980年代の国家による産業統合、そして薬品投入量で見た環境コストの実体を扱っている。中国依存の現状については中国依存の実態を参照されたい。
いま進行中の事例——マレーシア
放射性残渣の問題が最も具体的な形で現れ続けているのがマレーシアである。二つの事例がある。
一つは1980年代のブキメラ。三菱化成が関与した合弁事業アジア・レアアース社(ARE)が1982年に操業を開始し、製品は日本やヨーロッパへ輸出された。残ったトリウム廃棄物の扱いをめぐって住民訴訟が起こり、1994年1月に三菱化学が撤退を決めて工場は閉鎖された。廃棄物処理施設の契約が結ばれたのは、その15年後の2009年である。
もう一つは現在進行形のライナス社である。2026年3月2日、マレーシア政府は同社の操業許可を10年間更新した。ただし条件として、水浸出精製(WLP)残渣の生成を2031年までに停止すること、既発生分を1グラムあたり1ベクレル未満へ中和することなどが付されている。
40年をまたぐこの二つの経緯は、マレーシアで起きたこと、いま起きていることで扱っている。健康被害をめぐる主張の扱いについても、同記事で明示している。
南鳥島のレアアース泥は何が違うのか
ここまでは、放射性物質が避けられない話である。だが、日本のEEZ内にある南鳥島周辺のレアアース泥は、公表資料において「トリウムやウランなどの放射性元素をほとんど含まない」ことが特長の一つとして挙げられている。
理由は、レアアースを抱えている物質が違うことにある。南鳥島の泥でレアアースを担っているのは、魚類の骨や歯に由来する生物起源リン酸カルシウムである。モナザイトのように、結晶構造の中へトリウムを一緒に抱え込む仕組みがそもそもない。
陸上鉱石とレアアース泥の違いは、濃度の差ではなく成り立ちの差である。マグマや熱水の作用でできた鉱物と、生物の遺骸が海底に降り積もってできた堆積物では、同じレアアースを含んでいても、伴うものが変わる。
仕組みの詳細は南鳥島のレアアース泥はなぜ「放射性物質を含まない」のかで扱っている。プロジェクト全体の状況は南鳥島レアアース泥の総合解説にまとめている。
この問いは、まだ終わっていない
放射性物質をめぐる問いは、過去の話ではない。三つの日付が控えている。
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| 時期 | 何が問われるか |
|---|---|
| 2027年2月 | 南鳥島での1日約350トン規模の本格採鉱試験。産業として成立するか |
| 2031年 | ライナス社がWLP残渣の生成を停止する期限 |
| 2036年3月 | ライナス社の現行操業許可の満了 |
2027年2月の試験については政府側のロードマップで扱っている。
この記事は、新しい記事が加わるたびに更新していく。現時点で未着手のテーマとして、レアアース鉱石に放射性物質が伴う理由を地球化学の側から説明する記事を予定している。
この記事で確認できなかったこと
- モナザイト、バストネサイト、イオン吸着鉱、レアアース泥それぞれの放射能濃度の具体的な数値。いずれの資料も定性的な記述にとどまり、原典を特定できていない
- 1グラムあたり1ベクレルという基準が、国際的にどのような位置づけで定められているか
- 中国国内の環境負荷に関する定量的なデータ。公表資料が限られる
【依拠した資料】藤田実・小島和浩「世界のレアアース資源」(日本希土類学会誌)/文部科学省「ウラン又はトリウムを含む原材料、製品等の安全確保に関するガイドライン」(2009年)/日本証券経済研究所の講演録/中国科学院および北京大学の公表資料/和田喜彦「マレーシアでのレアアース資源製錬過程による環境問題」環境情報科学 43-4(2015年)/マレーシア政府の2026年3月2日発表を伝える現地報道/早稲田大学・東京工業大学「南鳥島レアアース泥の資源分布の可視化と高効率な選鉱手法の確立に成功」(2018年)/Fujinaga, K. et al., Geochemical Journal 50, 575–590(2016年)抄録。いずれも2026年9月に閲覧。個別の出典は各記事に記載している。
本記事は公表資料にもとづく記録であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。
